【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「今さら、どうでもいいじゃないですか。過去の話なんて。私たちは、少しだけの時間を共有したにすぎませんよね? ……仕事の話は30分後ですよね」

淡々と発した私の言葉に、佐伯部長の表情が少しだけ硬くなったように見えた。
――気のせいだろうか。

佐伯部長はちらりと時計に目を向けると、

「あと25分だ。お前は……」

何かを言いかけたが、唐突に席を立ち、そのままフロアへと戻っていった。

「……なによ……」

お前は、何よ……。

私の言葉は虚しく空を切り、誰にも届くことなく消えていった。

今になって、我慢していた涙があふれてくる。
慌てて手の甲で拭った。

――あぁ。

これまで必死に忘れようと生きてきたのに。
どうして、こんなふうに突然現れて、心を乱すのよ。

昔のように、優しく笑い合うことなど二度とない。
それだけがはっきりとわかる。

ぐちゃぐちゃになっていく感情を、私はもう止めることができなかった。
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