【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「お前と連絡が取れなくなって、少ししてアメリカに行ったからな」

そんな私の気持ちなどどうでもいいと言わんばかりに、佐伯部長は言葉を続けた。

――あの後、私は携帯も家もすべて変え、徹底的に連絡を絶った。

確かに、一方的だったかもしれない。
でも、本気で連絡を取る気があったのなら、友人を通すなり方法はあったはずだ。

それに、あの状況の 言い訳 なのか、別れの言葉 なのか。
どちらにしても、今さら聞く意味なんて、私にはわからなかった。

「連絡なんてする必要なかったですよね」

私の冷たい言葉に、佐伯部長はさらに冷たい声で返してきた。

「話す必要はあったんじゃないか?」

必要があった?

――なら、どうしてもっと連絡を取ろうとしてくれなかったの?

ふと浮かんだ疑問を、自分自身で打ち消す。

そんなことをする必要はなかったのだ。
私の存在よりも、あのときの女の人のほうが、大切だったのだから。
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