主任、それは ハンソク です!

 すると、うふふふと楽し気に佐野さんが笑った。

「東吾くんはね、衆議院議員の鈴原先生の一番末の長男さんなのよ」

 へぇー、鈴原議員……。そこで、みんなの動きが止まった。

「あの……、衆議の鈴原先生っていったら、5年前に任期満了目前でお亡くなりなった、あの鈴原元総理大臣、ってこと、でしょうか?」

 母がしどろもどろに佐野夫妻へとお伺いを立てると、ええ、もちろんそうよ、と彼女は相変わらずのマイペースな笑顔だ。

 その瞬間、私の中で全てのピースがカチリとはまった。

 ――周りが勝手に期待する。
 ――自分はそういう器ではない。
 ――親とか親類縁者、先生とかから受けた刷り込み、みたいなもの。

 どの瞬間の主任も、笑ってはいるけれど、とても辛そうな笑みだった。

 父親の跡継ぎとして期待されて、その期待に報えると思っていて、でも、無理だったと悟った時に負った心の傷は、私なんかでは想像もつかないけれど、相当深かったはず。

 私は思わず、着物の袖をぎゅっと握り絞めた。

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