主任、それは ハンソク です!

 は、初めて、普通に呼んでくれたような気がする、けど、も。それ以上に、なんか不穏な笑みを浮かべている主任が、こ、怖いんです、が。

「じゃあ、改めて。明日は得野、何か予定が入ってるか?」

 私は一瞬、逡巡する。

 いつもなら週末は残業が無い限り、一週間頑張ったご褒美に、家族に内緒で映画やウィンドーショッピングに繰り出す。

 嫁入り前だからと(26の娘を捕まえてそんな歳でもないのに)私の素行に対して病的にうるさい祖父母には、金曜日はおけいこ事だと誤魔化している。
 果たして騙せているのかどうかは定かではないけれど。

 ホントに早くあの家を出たい。
 あの人達から自由になりたい。

「今のところ空いてます。残業なら大丈夫ですよ?」

 主任がニヤリと嗤った。

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