エリート弁護士と婚前同居いたします
「あなたが彼女だなんて、婚約者だなんて彼が言うからよ。そんなこと認めないわ!」

キッと彼女が窓から目を離して私を睨む。先ほどまでの儚げな表情から一転、その視線の鋭さに一瞬怯みそうになる。
これは嫉妬? どうしてこんなにも敵意を向けられるの? 
ドクンドクンドクン、と心臓が早鐘をうつ。

得体の知れない緊張感が身体中を包んでいるけれど、悲しいくらいに心は冷えている。
「彼は私と別れた後、誰とも長続きしなかったし、本気で付き合っていなかった! 頑張って自分を磨けば最後には私のところに帰ってきてくれるって信じていた! なのに婚約者だなんて! 皆の前でそんな軽はずみな言動をする人じゃなかったのに!」
彼女の声音がどんどん低く、強くなる。

「職業柄、言葉の重さを誰よりも知っている人よ。その彼がそんなことを言うなんてあり得ない。どうして? 彼に何をしたの? あなたの何がそんなに特別なの?」
悲壮感さえ漂う虚ろな目で彼女が私を見つめる。

その勢いにただ圧倒される。その一途さに畏怖と胸の痛みを覚える。悲しいくらいにこの人の想いがわかってしまう。だって私も彼がとても好きだから。
私の何を好きになってくれたのか。私はここにいてもいいのか。彼女のように彼に並び立つ武器を何ひとつ持たない私には、自信すらないから。

「私は努力したわ! 彼に認められるように、彼に恥ずかしくない人間になるために! 別れだって受け入れた! なのにどうして!」
悲痛な声が私の耳に響く。そのひとつひとつの言葉が胸に刺さる。
「……私にはわかりません……」
 彼女の目を直視することが恐い。

「そうでしょうね。だってあなたは身代りだもの」
吐き捨てるように彼女が言った。思わず問い返す。
「身代り?」
「そうよ。言ったでしょ?  彼にはずっと好きな人がいるって。あなたのお姉さんよ」
彼女の答えは私に充分すぎる衝撃を与えた。

「……まさか」
漏れた声は驚くほど掠れていた。
ありえない。だって姉には侑哉お兄ちゃんがいて、親友同士でしょう?
私の考えていることが手に取るようにわかるのか、日高さんは得意げに口角を上げて言葉を続ける。
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