エリート弁護士と婚前同居いたします
彼が私を好きになってくれた理由を尋ねてみたらいいのだろうか。

 日曜日以外の休みはシフト制の私とは違い、彼は一応土曜日と日曜日が休日となっている。それでも急な仕事で出勤していたり、自宅にいても書類を作成していたり何かを調べていたりしていることは多々あった。

 そんななかでも朔くんは私と一緒に過ごす時間を多くとろうと努力してくれていた。休日は私の予定を前もって聞いてくれて、食事にでかけたり買物に出かけたりしていた。買物も金銭感覚や価値観が違うのではと最初はビクビクしていたけれど、むしろお金の使い方は、ついつい買い込み過ぎてしまう私とは違って堅実だった。必要なものにはきちんとお金をかける彼の姿勢は素敵だった。

 街を歩けば女性たちが彼を見つめて振り返る。その後で横に並んでいる私と比較されているようでいたたまれなかったけれど彼は全く気にしていない。いつも朔くんは私と手を繋いで歩こうとする。

 付き合っていないのだし繋ぐ必要はない、と天の邪鬼な私が反論すると繋ぎたいのだから、と譲らない。しかも指を絡めて恋人繋ぎをされてしまう。結局いつも言いくるめられる。そのためいつからか、一緒に歩く時は手を繋ぐようになってしまった。そしてそのことに本気で異を唱えようとしない私の本心は、敏い彼には気づかれてしまっているような気がして恐い。

 私の気持ちを彼は尋ねない。ただ時折何も言わずに彼に抱きしめられることがある。その度に私はドキドキしてしまうけれど本気で拒んだことはない。朔くんの腕のなかは温かくて泣きたいくらいに安心してしまう。だけど何も伝えない自分をズルイと思ってしまう。自分の本心がまだ見えない。自信がもてない。その言い訳の繰り返し。

 家賃代わりの『大好き』は今も続いている。その時は素直に言えるのに、それ以外でその言葉を口にできない弱くてズルイ自分。大好き、と私が口にするたびに、彼はとても甘い瞳で私を見つめる。こんな自分がとても卑怯で嫌なのに、今日も私は彼に甘えてしまっている。
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