エリート弁護士と婚前同居いたします
私だって作ることができるし、お惣菜を買うことだってできるのだから忙しい朔くんがそんなに頑張ってくれなくていいと何度も言ったけれど、彼は譲らない。

 どうしてそこまでしてくれるの? どうしてそんなに大事にしてくれるの?
 私よりずっと激務で責任のある立場にいる彼が、そんなにまでして大事にしてくれる価値が私にあるとは思えない。
 大事にされて優しくされて、とても嬉しいのに、不安ばかりが大きくなっていく。

 朔くんがしてくれるようなことを私はとても返せない。貰ってばかり。なのに自分の気持ちに自信はまだもてない。こんな状態で彼に自分の気持ちを伝えるなんてできない。何を言えばいいのかわからない。

 彼は変わらずに自分の気持ちを伝えてくれる。返事を急かすわけではなく、ただ自分が伝えたいからと言って。でもその時の朔くんのチョコレート色の瞳は不安で揺らいでいて胸が詰まる。その気持ちに応えたいのに、応える勇気がもてない。一歩が踏み出せない。こんなの彼の気持ちに甘えているだけだってわかっている。それでも恐かった。

 今はまだいいのかもしれない。出会って日も浅い。お互いのこともまだ知らないことの方が多い。
 だけどこれから長い時間を過ごすようになり、彼の気持ちに応えるようになってしまったらどうなるんだろう。

 急激に近付いた私たちのことだ。彼の私を想ってくれる気持ちは突然色褪せないのだろうか。飽きないのだろうか。それが何よりも恐い。私には朔くんのように完璧な容姿も優秀な頭脳も人に誇れるような特技さえない。自分には何もないことなんてわかりたくないくらいにわかっている。言われるとしたら恋愛観が重たいことくらい。でもそんなもの誇れることではない。
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