叶わぬ恋と分かれども(短編集)


 愕然とした。失望した。絶望した。悲観した。悲嘆した。
 今の今まで治まっていた憎悪が、また胸の奥からふつふつと溢れてきて、ひどく動揺した。

「……それって、さっきの、崎田さんです、か……?」

 身体中に湧き上がる様々な感情のせいで、声が震えていた。それを冬の寒さのせいに見せようと、店長からもらったココアの缶を両手でぎゅうっと握る。

「そうそう、あの子ね」

 崎田さんの話題が出た途端、店長はいつもの優しい顔つきを、照れくさいような幸福な笑みに変え、頬を掻く。

「……いつから、付き合ってるんですか?」

「去年かな。一年半くらい前」

 一年半前……。私が会社でセクハラやモラハラやパワハラ、度重なる残業、苦手な満員電車での通勤に耐えている頃、店長と崎田さんは幸せな日々を送っていたのか……。私の気も知らないで。どんなに辛い思いをしていたか、知りもせず……。

「……とても、そういう風には見えませんでしたけど……。店長に恋人がいる様子なんて全然なかったし。そういう話も聞きませんでしたし……」

「まあ、スタッフの前で恋人の話なんてしないしね」

 こんなことなら、もっと早く会社を辞めていれば良かった。四年も耐えなければ良かった。もっと早くこの店でアルバイトを始めて、店長と出会っていれば……。私が店長の恋人になって、幸せな日々を送っていたかもしれないのに……。


「……でも、クリスマスなのにデートの予定も入れないなんて、恋人同士としてどうなんでしょう……。私なら、クリスマスは好きな相手と過ごしたいって思いますけど……」

「それはそうなんだけど、俺はこの店の店長だし、彼女も雑貨屋で副店長をしてるし。この時期に希望休はなかなか出せないよ。店が回らなくなるしね」

「希望休も有給も、スタッフに与えられた権利なんですよね。私はまだ三ヶ月目のバイトだから有給は取れませんけど、店長は取れますよね?」

「権利はあるけど、それなりに責任もあるから」

「……それで、店長も彼女も納得してるんですか? デートの予定も入れずに、クリスマスらしいこともせずに……」

 店長の話を聞いているうちに、私の意見を話しているうちに、どんどん腹が立ってきた。私ならちゃんと、店長の予定を埋めてあげるのに。予定はわりと何も入ってない、なんて言わせないのに。本当に店長は、崎田さんの何が良くて付き合っているのか、全くもって分からない……。

 不愉快な気分を込めた口調で言ったけれど、店長は特に気にする様子もなく、ごくごく普通に返答する。

「イベント当日にデートっていうのはなかなか難しいけど、車で五分の距離に住んでるから相当頻繁に行き来してるし、クリスマスのデートもフライングでしたんだ。そういう風に、俺たちは俺たちらしくやってるから大丈夫だよ」

「フライングで、デートをしたんですか……?」

「うん、そう。光のページェント見て来た。十三日かな。だいぶ早いクリスマスになっちゃったけどね」



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