皇帝陛下の花嫁公募
 彼の誤りを正したかった。彼を愛しているのに、国のために身を切られるような思いで別れを告げているのだと。

 だけど、そう言ったら、彼のほうは諦めがつかないのではないだろうか。別れが余計につらくなってくる。彼が苦しんでいるのは、リゼットが今まで彼がやってくるのを止めなかったせいだ。

 わたしが彼と一緒にいたかったばかりに……。

 だから、せめて彼の心がこれ以上、傷つかないようにしてあげたかった。

 でも、本当はこんな終わり方をしたくない。軽蔑されるような別れ方なんてしたくない。彼の顔を見られるのはこれが最後なのに……。

 リゼットの心に最後に刻みつけられるのが、彼が激怒している顔だなんて悲しすぎる。

「ごめんなさい……」

 本当のことを告げる代わりに謝った。

 だが、彼の怒りは消えるどころか、余計に腹が立ったようだった。

「いいさ。明日、せいぜい皇帝に媚を売ればいい。皇帝が君の薄汚い欲望を見抜けずに、結婚して贅沢をさせてくれることを祈るよ」

 彼はそう言い捨てると、足早に窓から出ていった。彼が怒りのあまりに手や脚を滑らせるのではないかと心配になり、リゼットはすぐにバルコニーに歩み寄る。しかし、彼はあっという間に庭に下りて、去っていった。

 リゼットは空っぽの闇に包まれた庭を見つめた。両眼から涙が溢れ出てくるのが判る。とめどなく涙は流れ落ちていったが、アロイスへの想いだけは胸に残り続けていた。
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