皇帝陛下の花嫁公募
 アンドレアスは驚いたようにリゼットを見つめていた。

 それほど思いもよらぬことだったのだろうか。アマーナリアという国を知っていたなら、見当がつきそうなものなのに。結局、彼も辺境の属国には興味がなかったのだ。

「リゼット……」

「もういいわ。わたしはあなたの花嫁になれなくていい。でも、アマーナリアには何がしかの援助をしてほしいの。アマーナリアもあなたの帝国の一部なんだから」

 噂では、皇帝は国民のことをきちんと考えてくれていると聞いていた。リゼットはそれだけが頼みの綱だったのだ。

 今はもう本当はどんな人なのか判らないけれど。

 これが最後の賭けだ。リゼットを金目当ての性悪女みたいに思うのは自由だ。だが、アマーナリアの国民のことを少しでも考えてほしかった。

 突然音楽が終わり、二人ははっと動きを止め、少し離れた。

 アンドレアスはリゼットを見つめたまま、何か言おうとしている。そのとき、咳払いが聞こえてきて、初老の男性が進み出てきた。

「陛下、茶番はおやめになって、そろそろ花嫁をお決めになってはいかがですか?」

 アンドレアスはリゼットに目をやり、それからその初老の男に鋭い視線を向けた。

「ネスケル、私は決めた。花嫁は……」

 彼はリゼットの腰を抱き、自分のほうに引き寄せた。

「彼女だ。アマーナリア王国の王女、エリーゼティア姫だ」
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