皇帝陛下の花嫁公募
 そもそも、どこの国の王族とも付き合いがなく、一般の宿屋の少しいい部屋に泊まるくらいのことしかできないのだから、人の噂に晒されても仕方がなかったかもしれない。

 そして、ようやく帝都に着いたとき、リゼットはほっとした。

 やっと意地悪な人達の目から逃れられる。そう思ったのに、違っていた。母妃の実家は以前とは違い、ずいぶん落ちぶれていて、屋敷にあまり手をかけていない様子だった。

 リゼットの祖母はすでに亡くなっていて、祖父とは何度かアマーナリアに遊びにきてくれたとき、顔を合わせたことがある。祖父は王太子である弟のエーリクを可愛がっていて、リゼットにはそれほど関心がなかったようだった。

 だから、リゼットも祖父に会うことを楽しみにしていたわけではなかったが、はるばるアマーナリアから来たのだし、母妃は祖父にとって実の娘なのだから、それなのに歓待してくれるものだとばかり思っていた。

 ところが、出迎えてくれた祖父の目がリゼットを見るなり曇った。

 皇妃になるなんて絶対無理。祖父の目はそう言っているようだった。祖父としては、リゼットが皇妃になれれば自分の商売に役に立つと期待していたのに、その夢が打ち砕かれたようだった。

「まあ……その……花嫁に選ばれるように頑張るといい」
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