不器用な彼女
覚悟

病院にて

目覚めると、見慣れない部屋に居る。

ピンクの壁紙にピンクのソファー。詩織はベットに寝ていて、腕には点滴が繋がっている。

コンコン!

ドアがノックされ、薄ピンクの白衣のナースが顔を出した。

「櫻井さん、お目覚めですか?」

「…はい。ここは?」

「虹色マタニティークリニックですよ。食事も水分も摂れてなかったのかな?…あとは睡眠不足とか?」

「…はい」

妊娠が分かった瞬間から何かを口にすると気持ちが悪くて何も食べていなかった。水分すら吐き戻す始末で、睡眠もウトウトする程度だった。

「駅で倒れたんですよ?でも、バックの中から母子手帳とうちのエコー写真が見つかって…ここに運ばれて来たんです」

「私の!私の赤ちゃんは?!」

とっさにそんな言葉が出る。


「赤ちゃんは元気ですよ」

ナースの言葉にホッとする。



「今、先生を呼んで来ますね。あと、旦那さんとか、ご両親とか、連絡して貰えますか?入院に必要な手続きがありますので」

旦那さんなんて居ないし、両親にはまだ話もしてないし、一体誰を呼んだら良いの?

「私、大丈夫です。帰ります」

「今ね、きっと栄養状態が良くないの。食べ物はともかく、必要な水分も足りてない状態で…点滴を続ける必要があります。詳しくはこれから採尿してもらって結果を見てからになりますけど…」

ナースは採尿カップを詩織に手渡すと病室を出て行った。
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