やさしく包むエメラルド


古くてガタガタしたガーデンテーブルは、下に段ボールを敷いて調整した。
中央にライトとラジオを設置し、カレー鍋とご飯の土鍋、福神漬け、らっきょうなどは縁側に並べる。
コールスローサラダとぬるいビールがそれぞれ4つ、イスの前に並べられたけど、問題はそのイス。

「さすがにわたしの方が軽いです」

「『減る気配がない』って言ってなかった?」

「言ったけど! それでも成人男性ほどは重くないですよ!」

テーブルとセットのイスは4脚あったけど、壊れて今は2脚しかないらしい。
啓一郎さんが自室で使ってるスツールを下ろしてきたのと、あとひとつは除湿機が入っていた段ボール箱を立ててイス代わりにしたのだ。
啓一郎さんは断固として段ボールに座っている。

「ほら! ちょっとめりこんでるじゃないですか」

「この状態で安定してるんだよ」

「無様に転んでも知りませんからね」

「そんなにイスを使いたくないなら、その場で空気イスでもしてれば?」

「3秒、いや2秒できたら褒めてくれます?」

「2秒でカレー食えるならね」

ハイスペック電灯は明るく頼もしいけれど、青白い色のせいで色味が曖昧になる。
たっぷりと盛り付けられたカレーライスを、啓一郎さんは恐る恐るすくった。
いただきます、とは言ったものの、そのまま角度を変えながら観察している。

「何を恐れてるんですか?」

「いや、明らかにいつものカレーじゃないから」

「カレーも日進月歩で進化していくものですからね」

「うちのカレーは30年変わらぬ味でやってきたはずなんだよ」

麦茶を注いでいたおばさんが笑いながら助け船を出してくれた。

「大丈夫よ。変なものは入ってないし、ちゃんと味見はしたから」

母への信頼は確かなものらしく、啓一郎さんはようやくひとさじ口に入れた。

「あれ? おいしい」

「ほらほらほらほら! おばさん、聞きました? やりましたよ、わたしたち!」

実はこっそり様子を伺っていたらしいおじさんが、安心したようにスプーンを動かし始めた。

「わたしって信用ないなあ」

「それは小花の発言に問題あるからだよ」

啓一郎さんが初めてわたしの名前を呼んだ。
びっくしたけれど、反応したらもう呼んでくれないような気がして、気づかないふりをした。

「カレーなんてルー入れれば大丈夫なのに」

「それ。その考え方が危険なんだって」

灯りはひとつだけど、虫の声にラジオ、わたしたちの会話があって、テーブルはとても賑やかだった。
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