やさしく包むエメラルド
6. 瑠璃色の空の下


わたしが貸していただいた客間は二階にある8畳間だった。
畳敷きで、今は使われていないカラーボックスと、折り畳み式のテーブルがあるだけ。
おじさんとおばさんの寝室は一階にあるらしく、二階は上ってすぐに啓一郎さんの部屋があり、その隣、廊下に沿ってベランダがあって、さらにその奥が客間という造りになっていた。

お借りした懐中電灯と携帯を枕元に置いて、硬いそば殻枕の上で何度も寝返りを打つ。
目を開けても閉じても変わらない闇のせいか、どこか気持ちが落ち着かなくてなかなか眠気が訪れなかった。

トイレにでも行こうかと出入口の戸を開けると、闇に慣れた目にはまぶしく感じるほどの月明かりが、廊下を満たしていた。
素足のまま引き寄せられるようにベランダに出て、空を見上げる。
雲はほとんどなく、満月に近い月が明るいために星は思ったより見えない。
しずかな夜だ。
空が明るいせいで地上の闇が濃くみえる。
風が窓ガラスや木々の枝を鳴らす音はいつも通りするのに、それでもなぜか町中が沈黙しているようで、内側に何か得体の知れないものを秘めたような不穏な感じがする。

「江戸時代とか、こんな感じだったのかな」

毎夜闇が深くなるなら、不安も、悪感情も、人肌のぬくもりも、より一層強く感じられたのではないかと思う。
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