明治、禁じられた恋の行方
4.契約

志恩と千歳との契約は、高倉も同席する中、締結された。

高倉が、淡々と述べる。

「今回の契約は、試用期間のある、成果報酬型の契約とさせていただきます。借金は即時返済が必要なもののみ、一時的に対応いたしますが、決して肩代わりをするものでは無い事をご留意ください。」

こくり、と千歳が頷き、目で先を促す。

話が早い子だ。
高倉も内心、舌を巻く。
この年齢で、母親も無くし、父親も拘留されている状況で。
彼女を動かしているのは、復讐心?

それとも・・・

言葉の節々から、自分の事はどうでもいいと、どうにでもなれという想いが切々と伝わってくる。

復讐心だけではなく、
無力な、自分への怒りだろうか。


哀れな子だ。
こちらは利用するだけ利用して、後の事など考えてやってはいないのに。


顔には出さず、高倉は話を進める。

「成果、というのは、輸出入品を販売した結果の利益を指します。千歳様の関わりにより得られた成果は、偽ることなく評価させていただきます。

こちらに書いてある期間に成果が得られなかった場合は、契約条件は満たされなかったとし、その間にかかった生活費等の費用も追加し、金銭の返還を求めます。」


志恩は表情を動かさず、千歳を観察している。
17歳の、社会も知らないお嬢様に、この内容が本当に理解できているのだろうか。



千歳は、契約の内容にゴクリと唾を飲み込んだ。
果たして自分に可能な内容か、千歳には検討もつかない。


だが・・・

隣の部屋で泣きつかれて眠っている冬璃、そしてこの身。

2人が自由でいられるだけ、今の千歳には有り難い話だった。


「弟を・・・」


高倉が契約書を指し示していた手を止める。


「このような立場を申し上げるのは大変恐縮なのですが、」

「弟を、どこか・・教育が受けられる環境で、預かってはいただけないでしょうか。」


志恩と高倉が目を合わせる。高倉が頷いた。


「いいだろう。高倉の従兄弟が、弟くんと同じくらいの年齢で、今、横浜に住んでいる。そこに預からせよう。」


大切に扱うよう、伝えさせるよ。


その言葉に、千歳は深く頭を下げた。
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