明治、禁じられた恋の行方

千歳は、2日後には八神家へ迎え入れられた。
生活に必要なもの以外はほとんど売り払ってしまったため、
千歳の荷物はトランク一つに収まるような状態だった。

辛かったのは、冬璃との別れ。
母親との死別間もない弟を、知り合いもいない家に置き去りにした。

志恩と高倉に頼み、志恩と同行した横浜の家は、穏やかで雰囲気の言い場所だった。

千歳の顔一面に、心配と書かれていたのだろう、
女中頭が「安心してくださいね。」と言ったときには、涙が溢れそうだった。

冬璃も途中までは、幼いながらに、わがままを言えない状況と理解はしていたのだろう、心配な程大人しくしていた。

が、


見送りに出てきた冬璃の顔は、涙でぐしゃぐしゃで・・・



「姉さま・・・置いて行かないで!!!」



うわああんと泣き出してしまった冬璃に、ポロポロと涙が溢れる。


きっと会いに来る。
絶対に、これで終わりにはさせない。


心が引き裂かれる思いで冬璃の手を離し、
横浜の家を後にした。




列車の中、志恩が目を赤くした千歳をじっと見ている。

「・・何ですか?」


いや、と視線を窓の外に移す。

「安心したよ。」

感情があるんだな、人形だったらどうしようかと思った。
そう言った志恩を睨みつけ、千歳も窓の外を眺めた。
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