明治、禁じられた恋の行方
千歳を背負い、志恩はゆっくりと歩いていた。
迎えに行く気は無かった。
だが、家にいても落ち着かない。
高倉にはバレているだろうが、「問屋に用事がある」と用もないのに嘘を付き、出てきたのだ。
右手で抱える細い膝からは、ドクドクと赤い血が出ている。
志恩が警察署に向かって歩いていると、
千歳が走ってくるのが見えた。
ほっと息を吐き、駆け寄る。
千歳が崩れ落ちたのは、その直後だった。
ぐす、ぐす、と、背中から鼻を啜る音が聞こえる。
自分がさせたことなのに、険しく眉が寄る。
いや、情を移すな。今だけの関係だ。今だけ・・・
自分に言い聞かせる。
「千歳、お前はよく泣くな」
ごめんなさい、と聞こえる。
「もうやめておけ、復讐なんて。」
お前には無理だ。
そう言われているのだろう、千歳は駄々っ子のように、嫌、嫌、と言い、また涙を流した。