明治、禁じられた恋の行方

「父様・・・!」

留置場から出てきた具忠を支える。
何年も経ったかのように、具忠は千歳が肩を貸さなければ、今にも崩れ落ちそうだった。


「お前が、動いてくれたのか・・・」


弱々しい声で言う父に、千歳は首を振る。


「八神の・・・志恩さんが動いてくれたの。」


今はどこに、と聞く具忠に彼が勾留されていることを伝えると、具忠は険しい顔をして目を閉じた。

千歳には、具忠の回復を待ち、伝えなければならない事があった。

「父様・・・
 黙っていて、伝えられなくて、ごめんなさい・・・」

「母様が、亡くなったの。」


その瞬間、これまで涙を見たことのない具忠の目から、涙が溢れ出した。

「あああぁぁ・・・!」

顔を手で隠し慟哭する具忠の姿に、千歳は涙が止まらなかった。

母の死を知って、父は変わった。

窓際の椅子に座り、1日中ぼんやりと外を見ている。

少しでも元気になればと、冬璃も呼び寄せた。

無邪気な冬璃のおかげで、具忠は徐々に顔色が良くなっていくようだった。


「千歳」

ある日、具忠は千歳の使っている部屋にやってきた。


躊躇いながら、口を開く。

八神くんは、阿片取引の罪で拘束されているんだろう。

近衛家に脅されてやったことだと分かれば、
少しでも、罪は軽くなるかもしれない。

お前には、同じ思いをさせたくない・・・

小さくなってしまった父親の手を握り、
ありがとう、父様、と千歳は礼を言った。


千歳は、久我家、柳原家、救われた家々をまわり、毎日のように署名を集めた。

飯田の計らいで、減刑の訴えが雑誌に掲載される。


だが、実際に繰り返し取引を行ったという事実は消えない。


志恩には、3年という刑期が言い渡された。
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