私の好みはクズなんだってば。
里崎が飛び出して行った。「金は明日!!」と叫んでいたがあいつは明日が土曜日で大学がないことまで頭から吹っ飛んでしまったみたいだ。呆れ顔でカシオレを傾ける。

「里崎、よっぽど笠原さんのこと好きなんだね」

「見ててイライラするよね、ほんとに。さっさと告って付き合えばいいのに」

そうだねと微笑んで寒川くんもお酒を口にする。彼は結構強いお酒が好きみたいだ。あたしのカシオレとはきっと比べ物にならないレベルの度数なんだろう。

「寒川くんのそのお酒って美味しい?」

「ん?うーんまぁ。俺は美味しいと思うけど、唐橋さんの口には合わないかも」

一口飲んでみる?とグラスを差し出される。間接キスだ、なんて心が浮き立つような歳でもないのにすこし心臓が跳ねる。

じゃあ一口だけ、とグラスを受け取って口をつける。唇がすこしピリッとして喉を熱い液体が通り抜ける。少しきつくて咳き込むと寒川くんが背中を撫でてくれた。

「きつっ、よく飲むねこんなに強いの」

「男は酒に強くないとモテないかなって」

「いや、寒川くんくらいイケメンならお酒に強かろーが弱かろーが関係なくモテるでしょ」

お世辞でも嬉しいな、と困ったように笑う。やっぱり綺麗な顔だ。

「里崎が寒川くん呼んでくれてよかった。どうせ私を凛から引き剥がすためだったんだろうけど」

「俺も、餌にされてよかったよ。ちゃんと食いついてくれたし」

上品な笑顔が、すこし意地悪に歪む。そのギャップすら見惚れてしまって危ない。

このままだとどうにかなってしまいそうだと思い、もうお開きにしようと切り出す。伝票を見ようとすると寒川くんに奪われて、あとで里崎にも払わせとくからと全額奢られてしまった。イケメンはそういう所もスマートだ。

「凛と違って私の家は隣の通りだし、送らなくてもいいからね」

「また里崎が怒るかもしれないし、送るよ」

「里崎は私の事じゃ怒んないよ」

ここにいない2人をからかって微笑み合う。じゃあお願いします、と素直に家まで送ってもらうことにした。
じゃあまた明日、と手を振る私に、明日は休みだよと既視感のある挨拶をして去っていく後ろ姿をしばらく眺めていた。
< 10 / 17 >

この作品をシェア

pagetop