太陽と臆病な猫
学ラン姿の少年だった。少し幼い顔をした少年は、固まってしまって動けないでいた。
この少年を使えば、この状況から脱することができるかもしれない。そう考えた俺は、たまらず声を掛けていた。
「ごめん。ここ君のクラスだった??」
「あ! え! あっ!はい!!」
ふと声を掛けられたからか、声が少し上擦って少年は変な声を出していたが、
顔を赤らめながらも改めて「そうだと……思うんですけど……」と答えだした。
「きゃっ……! 誰なの君!?」女は口元を押さえ、そこに立っている少年よりも真っ赤な顔をして崩した服を正し始めた。
一体、中等部の教室で何をしようとしていたか甚だ疑問だが、彼女にとっては相当恥ずかしい思いをしたに違いなかった。その証拠に、彼女は慌てて教室を飛び出して行ってしまったのだから。
女が帰ったところで、俺も服を整え、形だけでもと少年に謝罪をした。
「気持ち悪いとこ見せてごめんね」
「え?」
「人のキスシーンなんて、気持ち悪いだけでしょ」
「あ……いえ……俺の方こそ……何も声を掛けずに入ってしまって……すみませんでした」少年が軽く頭を下げながら謝罪をすると、繰り返される謝罪合戦に不覚にも笑ってしまった俺は、「キリないな、君なんて名前なの?」と無意識のうちに少年に尋ねていた。
「あ、御園幸と言います」
あっさりと少年は自己紹介を始め、どこかで聞いたことのあるような名前だが、ぱっと思いつかなかったため、とりあえず、名前を記憶する。
「ゆき。ね」
ふっと、幸の顔をみると、みるみる内に赤くなっていき、「じゃあ……あの、俺帰ります……失礼しました」と目を逸らされてしまった。なぜだか放っておけなくて、俺は再度声をかける。
「気をつけて帰りなね。少年」
「はい……」
幸は軽く会釈をすると、駆け足で学校を去っていった。

そして訪れた一人の時間。
この時間こそ本来俺が求めていたものだった。

「みその……ゆき……変わった奴だったな」
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