夏が残したテラス……
「花火やろうぜ!」

 ユウちゃんが、花火を抱え海岸へと向かった。

 酔いもまわり、お腹もいっぱいだ。


「俺は、ここから見てるから行ってこい」

 赤い顔のパパが椅子に座って言った。

 パパはいつもママといっしょにここから花火を見ていた。

 きっと、今もママと一緒なのだろう。


「うん」

 私は、椅子から立ち上がり、走って皆の後を追った。


 そして、もう一度振り向いた。

『ママ。パパとゆっくりしてね』



「ドッカン!」


 いきなり打ち上げ花火が上あがり、思わず悲鳴を上げてしまった。


「綺麗だっただろ?」

 海里さんが、ニヤリとして言った。


「いきなりで、びっくりして終わっちゃったよ!」

 私がふて腐れた声を上げると。


「打ち上げ花火、点火します!」

 海里さんが、今度は前おきをしてから砂浜に置かれた打ち上げ花火に火を着けた。


「ヒュ~~」

 と、音がすると空に、火の粉が散りばめられた。


「うわ―。綺麗」

 思わず声を上げてしまった。


「かなさん、はい」

 高橋くんが、私の目の前に手持ち花火を差し出した。


「ありがとう」

 花火を受け取ると、高橋くんが火を点けてくれた。

 火の粉が落ちる花火を手に、二人で並んだ。


 突然、背中に冷たい感触が落ちた。

「ひぇ―」

 思わず飛び上がると、海里さんが海から、私に向かって水を飛ばしてきた。


「何、すんのよ!」

「火事かと思って」

「そんな訳ないでしょ!」

 海里さんのせいで消えてしまった花火をバケツの中へ投げ出し、海里さんのいる海へと向かった。

 私も、海の水をすくって海里さんの背中に向かって思いっきりかけた。


「冷てぇ」

 海里さんが、飛び跳ねて逃げる姿を、私は声を上げながら追い掛けた。

 夏の初め、夜の海はまだ少し冷たい。


 私は、海里さんしか見えていなかった。

 だから、高橋君が少し淋しそうに、こっちを見ていた事には私は気付かなかった。


 だが、ユウちゃんも、高橋君もすぐに海に入り水のかけ合いになってしまった。

 又、花火に火を点けるころには、寒くてガタガタ震える始末だった。


 パパが、ニコニコしながら、テラスから眺めている。


 きっと、ママと話を楽しんでいるのだろう。

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