夏が残したテラス……
後ろから、すっと腕が伸び首に回った。
 「きゃっ!」一瞬小さく驚いたが、海里さんの匂いに、すっと力が抜けた。

 頭の上に、海里さんの吐息がかかる。
 何も言わず、後ろから海里さんに抱きしめられたまま、二人で海を見つめる。
 言葉は無くても、愛しさに満たされていく。

 そうか。今、パパ居ないんだ……

 私の冷たい髪に、海里さんの暖かい頬がぎゅっと当てられる。
 そして、重なっていた腕が緩み、私の頬が暖かい手に触れられた。


「しっかり冷えちまってる……」

 そう言うと、海里さんは手にスッと力を入れ、私の顔を上げさせたと同時に唇を重ねた。

 誰も居ないとは言え外のテラスだ。

「ちょっと、外だよ……」

 私は、唇が離れた瞬間に言ったのだが、直ぐに又塞がれてしまった。
 今度は、角度を変えながら何度も何度も。
 激しく息をする間もないのに優しくて……

 いつの間にか私の手は、しっかりと海里さんの背中に回っていた。

 すーっと口の中を、海里さんの舌が回ったのが分かった。驚いたのは一瞬で、背中に何かが走ったような感覚に力が抜けそうになり、海里さんがぎゅっと腰を抱きしめた。
 すると、海里さんの舌は、私の舌に絡みだし息もつけず、でも気持ちよくて、ぼ―とっとなる。

 長い、長いキスの後、やっと、海里さんは唇を離し、又、私を後ろから抱きしめるように海を見つめた。

 「心配するな」

 そう言った海里さんを見上げると、海里さんはホテルの方へ目を向けた。


「うん。でも、私に出来る事はないんだよね?」

 私は、小さな声で言った。

「今でも、十分力になっている。いつか、分かるよ……」
 
 海里さんば、ぎゅっと力を入れて抱きしめてくれた。

「えっ…… でも……」


「じゃあ、取り合えず、コーヒー淹れて。これから、まだ仕事に戻らなきゃなんだ」


「えっ? うん……」

 そうか、帰るのか…… 
 少し淋しくなり、海を見つめた。

 まるで、私の気持を受け取ったように、海里さんの顔が近付きふっと唇に触れた。

 今度は、優しい短いキスを落とした。
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