夏が残したテラス……
「何だ? お前の耳にも入っているのか?」

 今度は、パパの声が曇った。

「そりゃまあ…… 俺の仕事となんらかの関係はあるし、ユウも噂に聞いたっていってました……」

「まあ、どうなるのかは分からんが、今年の夏に影響はそれほど無さそうだし、奏海と二人でこの店をやってくのには、何の問題もない。奏海だっていつかは、ここを出て嫁にいくだろうし…… 俺は、梨夏との思いでのこの店を守るだけだ…… お前が気にする事じゃない」


「おやじさん……」


「だから、お前も、お前がやるべき事をやれ」


 持ち上げられたグラスの中の氷がカランっと音を立てた。


 私からは、二人の表情が見えないし、二人の会話の意味がさっぱりわからない。

 でも、海里さんの仕事、この店の事、私の知らない所で何か問題が起きている事だけが分かる。


「おやじさん…… リゾートホテルの件、俺に任せてもらえませんか?」


「任せる?って、そんな簡単な問題じゃないぞ」


「分かっています。その件も踏まえて、自分の事も考えたいんです」


「ふぅ―ん」

 パパは、唸るような重い声を漏らした。


「この店は、俺にとっても大切な店です。梨夏さんにも助けてもらったし、奏海だって……」


 海里さんの声が、こもってしまい最後がはっきり聞こえなかった。

 私だって? 

 何て言ったのだろう?


「分かった。ただ、無理はするなよ!」


「はい」

 海里さんの声は、何故か張りのあるものだった。


 それから、二人はいつもの海の話になり、私はそっと二階に上がった。
< 12 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop