夏が残したテラス……
「高橋君も疲れたでしょ、もう、上がって」

私は、キッチン向かいながら言った。

「俺は、いいですよ。片付けしてから上がるんで」


「ありがとう」

 私は、キッチンに入り、明日の準備にとりかかった。


 高橋君は、隣りで残りの荒い物をしてくれている。


「美夜さん、そのブレスレット、珍しいですね。あまり、そういうのしないじゃないですか? 料理の邪魔になるんじゃないですか?」

 高橋君の声が、珍しく尖っている気がするし、そんな事を言うなんて初めてだ。と、言っても、まだ、バイト初めて数か月なのだが……


「そう? ぴったりしているから以外に大丈夫よ」

 私は、準備の手を休めずに言った。


「ならいいですけど……」

 なんだか、いつになく刺のある言い方のような気がする。


 なんとなく、黙々と作業をしていたが、

「奏海さん、お店のモップ新しいのに変えて下さいよ~」

 高橋くんの、すこしおどけた声がした。

 声のした方へ目を向けると、高橋くんが、ボロボロになったモップを持ち上げていた。
 高橋くんの顔は、いつもと変わらないあどけない表情をしていた。


「ああ―っ。いつのまに。それじゃ掃除にならないわね」私

 は思わず笑ってしまった。高橋君も笑いだした。


 高橋君が、笑いながらモップを持って近づいてきた。

 モップを受け取ろうと手を伸ばしたとき、高橋君の顔からふっと笑みが消えた。
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