幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
ウチにもエアコンはあるけど、そこにはママが彼氏と一緒にいたりする。鉢合わせしたくないから、家では暑くても自分の部屋に閉じ籠っていた。



「家よりここの方が落ち着くな」


「…………お前、大丈夫かよ」


涼介の躊躇うような言い方は、役所の人が私に質問する時と似てる。今日は余計な心配をさせてしまったみたいだ。



「大丈夫、大丈夫。バスケ楽しいし、涼介みたいな良い奴の友だちもいるし。

おまけに女の子にモテまくるし。最高にハッピー」


「たまきん、女にモテて嬉しいの?」


「うん、みんな可愛いもん。私、涼介よりモテるかもよ」


バスケが得意で背が高いこともあって、私は女の子にちょっとしたアイドルみたいに扱われてる。

バレンタインにはたくさんチョコを貰った。カラフルで女の子らしいラッピングは見ているだけで楽しくて、いつまでも見飽きない。
おまけに、日持ちがするから緊急時の食事にもなる、ありがたい贈り物。


「たまきんは女が好きってこと?」


「ううん、そんなことないよ。恋愛なら一生したくない」


誰かを好きなママは痛々しくて辛い。彼氏としょっちゅうケンカするし、長く続いた試しはないし。どうしてママはいつも恋愛なんかしてるんだろう。



「恋愛なんかいらないから、こんなふうに落ち着ける場所にずっといられたらいいなー」


言ったところでどうしようもないのに、気が緩んでつい口にしてしまった。



「今はまだガキだから、できないけど……

大人になったら、たまきんの居場所くらい俺が何とかしてやるよ」



馬鹿だなぁ、涼介は。

そんなの無理に決まってる。


そう思ったけど、その時だけは「待ってるよ」と言った。


明日には転校することが決まっていたからだ。叶えられない約束をしても、もう会わないなら期待してがっかりすることもない。


湿っぽいお別れは嫌いだから、転校することは涼介にも誰にも言わなかった。
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