願わくは、雨にくちづけ

 今夜の雨のように、どんどん激しくなるキスが止み、伊鈴は立花にしなだれた。
 そして、抱き寄せる手と、うなじや耳に触れるもう一方、そして重なり続ける唇以外、どこにも触れられていないことに疼きを覚えた。

(煌さんに愛されたい……。同じように想ってくれてる?)

 立花と過ごすうちに、心に素直に、時に大胆に変わった伊鈴は、さりげなく彼の腰回りに手を回す。
 しかし、彼はそっと彼女の手を取って、指を絡めて繋いだ。


「今日は、送るよ」
「……はい」

 もどかしさと恥じらいの狭間で、伊鈴は立花に手を引かれ、玄関へ向かった。

(少し冷静になろう。余裕がなさすぎた。……格好悪いな、俺)

 このまま、抱いてもよかった。
 誰にも邪魔をされない自宅で、雨音を聞きながら彼女に愛を注いでも、誰も文句は言わない。

 だけど、今夜は違うと思ったのだ。
 荒々しく抱いていられた昨夜が、どこか懐かしくも思う。

< 34 / 135 >

この作品をシェア

pagetop