エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~

「ちょっとアンタねえ、初対面の人間に失礼でしょ、謝りなさい」

しかし彼女は謝るどころか、口元でクスッと嘲笑を浮かべる。

「先に謝らなきゃいけないのはどっちかしらね? ……まぁ、私は心が広いから、一度の浮気くらい見逃すつもりではあるけれど」

肩に流した髪を撫でつつ気だるげに話す百合さん。その口から出た“浮気”という言葉に、胸がズキっと痛くなった。

私たちの関係を、そんな軽い言葉で言い表してほしくない。そう思う反面、じゃあどんな関係だったのかと問われれば、答えられない。結局は、浮気だと言われても仕方のない、曖昧なつながりしかなくて……。

どんどん落ち込んでいく私に、百合さんは追い打ちをかける。

「一誠ってば、私とは政略結婚だからって、結婚前に別の女性と遊びたくなったみたいね? それでも私、最後にちゃんと私の元へ戻ってきてくれれば彼を咎めるつもりはないの。ただ、あなたは未来のある若い女性だから、彼に遊ばれているのが申し訳なくって……だから、彼に代わって謝りに来たのよ、巴さん」

「そう、だったんですか……」

なんてできた婚約者さんだろう。本心では、私のことをひっぱたいて罵りたいだろうに、こんなに余裕の態度で振る舞えるなんて……。

いや、私が“中の中”だから、別にショックでもないのか。嫉妬するまでもない、レベルの低い相手。そう思われているに違いない。


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