エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「私、綿を詰めただけだけどね……。でもほんと、ありがとう」
顔を上げ、くるりと椅子を回転させ彼の方に改めて向き直り、お礼を言った。
彼は少しはにかんで、それからギッ、椅子を鳴らして立ち上がると、黒縁メガネを外してスーツの胸ポケットに引っ掛けた。
そして片手を私のデスクについて、身を屈めたかと思うと、なぜか至近距離で私の顔を覗いた。反射的に、胸がドキッと音を立てる。
「えっ……と、成田くん? 近い、んだけど……」
目の前には、メイクもしてないのに、女の子のようにきめ細やかな白い肌をした成田くんの顔。
それに比べて、こっちは残業でメイクもボロボロだろうし、そんなに近くで見ないで頂きたいな……。
視線をあちこちさまよわせ、気まずいのを誤魔化していたそのとき。
「……ご褒美。もらいますね?」
成田くんらしからぬ、男性的な低い声に囁かれて、「えっ?」と聞き返した直後にはもう、彼の唇が私のそれをふさいでいた。
な……な、な、な、なにこれ……。
成田くんは後輩で、仕事仲間で、可愛い弟みたいな存在で……。
そんな彼と、なんで、唇が重なってるの――!?