エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
『巴?』
一誠さんに名前を呼ばれ、やっと我に返った。
「いえ、何でもないです。了解しましたので、迎え待ってます。何時でしたっけ?」
落ち込んだ自分を悟られないよう、明るい声で尋ねる。
『五時半です。では、またあとで』
立ったまま話していた私は、スマホをベッドに放り投げ、自分もそこにダイブすると、ため息をついた。
やばい……この落ち込みよう。疑似恋人役が板についてきた、どころじゃない。
もしかして私、心のどこかで一誠さんの“適当な”じゃなく“特別な”異性になりたいとか思ってない?
忘れちゃダメだよ、巴。これはシミュレーションで、それ以上でもそれ以下でもない。
一誠さんが私を必要としているように感じているのは事実だけど、それは恋愛感情ではないんだから――。
浮ついた心をなだめようとして何度も自分に言い聞かせたけれど、むしろ逆効果。
余計に心の中がぐちゃぐちゃになって、私はしばらくベッドから起き上がれなかった。