明日を生きる君達へ

悲しみとひとつの力

自分でも不思議なくらい、涙が出なかった。自分は何を考えているのか、どんな感情なのか、何も分からなかった。
そんな状態のまま、春歌の葬儀を迎えた。

「零ちゃん。」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには春歌のお母さんが立っていた。
「春歌のお母さん…。」
春歌のお母さんは、見たこともないほど衰弱し、やつれていた。
「あの子と仲良くしてくれてありがとうね。最期まで、大親友の零ちゃんと一緒にいれて、あの子はきっと幸せだったと思うわ…。」
そこまで言うと、あとの言葉は嗚咽に紛れて言葉にならなかった。
「ごめんね……辛い思いをさせちゃって…あの子の事、許してあげてね……っ……。」

あぁ。やめて。そんな事言わないで。

悪いのは春歌じゃない。
あの時一緒にいた私だ。

決断することから逃げない、なんて思わなければ。

LaLaに行きたい、なんて言わなければ。

クレープが食べたい、なんて言わなければ。

行こうとしたのが、あの日、あの時じゃなければ。

私が、行くのを止めておけば。

こんな事に、ならずに済んだ。

春歌は、死なずに済んだ。


その時、ずっと抑えていた物が溢れ出した。

悲しみ、後悔、嘆き、苦しみ、自分への怒り。
数え切れない負の感情と共に、春歌との思い出、楽しかった事も、嬉しかった事も、笑いあった事も。洪水みたいに私の中に流れ込んできた。


「うっ…うぅぅ……。」
どうしてこんな事になったの?
今度出かける時、買った服、着ていこうって言ったのに。
お揃いのキーホルダー買って、明日からカバンに付けていこうって言ってたのに。

抑えきれない感情が、涙のネジを緩め続ける。


──嘘つき。

春歌、彼氏作るって、言ってたじゃん。
作ってないじゃん。
きっと、この何日かの間に春歌に惚れた男子もいた。
何よりも、春歌が居ないと、私は生きていけないの、知ってたくせに。

何で?
何で何で何で!!

溢れる涙を必死に抑えているうちに、春歌の葬儀は終わった。
家に帰っても、平常を装える訳もなく、ただただ泣いていた。
お母さんもお父さんも弟も、そんな私を気遣ってくれたのか、何も言わなかった。今の私にはそれが嬉しかった。1人にして欲しかった。

泣いて泣いて、涙も収まってきたころ、日時は次の日になろうとしていた。私は布団にも入らず、ひんやりとしたフローリングの床で、眠ってしまった。

< 5 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop