死にたがりティーンエイジを忘れない


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文化祭当日、智絵は学校に来なかった。

わたしは誰の誘いも断って、一人で美術室に行った。



校舎の端にあって、もともと何となく薄暗い美術室は、人気のある展示場所ではなかった。

美術部の作品は中学生のレベルを超えたものばかりで迫力があったけれど、ここまで足を運ぶ人はいないらしい。


わたしは、一つのイヤな予感に突き動かされて、美術室の中を足早に見て回った。

作品そのものに目を向ける余裕がない。

作品のそばに掲示されたラベルだけを注視する。

ラベルに記された制作者の名前だけを。


ない。


智絵の名前がない。


クラス展示用のイラストを描くことが決まってから、毎朝、智絵はわたしよりずっと早く登校するようになっていた。

放課後の時間を取られてしまって、美術部の作品制作に当てることができない。

朝しかなかったんだ。


でも、文化祭本番の今日、智絵の作品が展示されていない。

わたしは、美術室を二周した。

見落としはない。

智絵の名前は、やっぱりない。


遠慮がちな男子の声が聞こえた。


「あの」


ソフトでキレイな声。

上田だ。


わたしは振り向いた。

困ったような表情の上田がそこにいた。


「智絵の作品は?」


声がかすれた。


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