恋を乞う。



三つ目は、
「聞いてます?」
またいつか話すとしよう。
「それでね、私体育祭で100人斬りをやるんです」
「ちょっとまて、なんで体育祭で100人斬りなんかやる必要ないだろ。というか普通体育祭で100人斬りなんざやらねーだろ」
あの一件の後、彼女の親に事件を説明して俺の居る桜ヶ丘高校に彼女を入学させた
桜ヶ丘は元々女学校、四年前に共学になったばかりの進学校
本当は引っ越すのが一番だとは言ったのだが、それを拒んだのは彼女自身だった。
「あの人が居たこの場所から、アンタから離れたくないんですよ」
あの人、はきっと俺の姉だろう。
このあたりには女学校もなく、泣く泣く俺の居る高校に進学した
はずだ、俺のいる高校には少なくとも100人斬りなんて物騒なものない
「私が剣術の道場に行っていたのを教師がぽろっと
いっちまったんです。そしたら瞬く間に広まっちゃって」
彼女が俺の手を取り、へへへと笑う。こういう笑い方をするときは大概なにか企んでいる時の顔だ
「聞きたくねーけど、その顔はなんかあんだろ」
体育祭まで一週間きっている中、彼女の提案はため息の出るものだった
「久しぶりにアンタと手合わせしたいんです、100人目、本気でかかってきてもらえませんかね」
「ってどうせ、どれで話しとおしたんだろ。」
こいつに笑みを向けられ、願われちゃどんな男もころりと落ちるだろう。
どんな願いも聞き入れたくなるものだ
「ばれちまいました?ほかは女子なんで、手加減しまくりできっとつまらないから」
なれたように合鍵でうちの扉を開き、同じ家に帰る。
ここ一年は俺の家に平然と泊まっている、もう既に空室が私物化されている。
俺の部屋と亡き姉の部屋の間、アイツの部屋になりつつあるその部屋の扉をノックして一応入るぞと一言断りを入れ、返事を聞いてから部屋の扉を開く

「風呂沸いたから先入れ」

はーいとゲームから目を離さず返事をして、かちかちとゲームをセーブする
なれたもので、そのまま部屋のある2階から降り、料理を始める
元はまったく出来なかった料理もアイツのおかげで随分上手くなった
今じゃ料理のほとんどは俺がやっているほどに。

トントンと階段を弾むように降りる音がして、直ぐに「いってきまー」最後の聞こえない言葉を発して直ぐに浴室から鼻歌が聞こえる。
栄養バランスを考えて慎重に、かつ素早くこなして行く
これじゃ家族という枠すら超えて、家政婦のような様だ
煮込み終わるまでに課題を片す
さすがは進学校というべきか、課題の量も何度も高い。
あっという間に煮込み終わり味を見ていると「いい湯だった~ぃ」とおっさんが出てきて、しばらくして食卓につく

「「いただきます」」

無論、終始無言。
食事が終わるまで基本的には何も話さない
前までは話していたが、コイツは話し出すと食事を忘れ、料理が冷めてしまう。
ただでさえ偏食なのに、話に集中して食事を疎かにして栄養失調にでもなられちゃコイツの両親に頼まれている身の、俺が困る。
打開策が話さない、とはなんともシンプルなもので、だがしかし効果は絶大だった
話さないようにしてから、コイツの皿から料理がきれいに消えた。
会話は食事の後、リビングで開かれる課題消化時間にされるものに変わった
兎に角勉強嫌いなコイツは教えてもらうという建前で、結果俺の答えを盗み見ている
折角丁寧に教えてやっているというのにも関わらず、答えだけを写すコイツが何故学年十位以内に入れるのか、俺は学校の七不思議以上に不思議に思えてならない

翌日の課題が片付き、コイツが寝てから俺は風呂に入れる。
さっき入れた風呂は冷め切っているので、入れなおして
その間に昼の弁当の準備を行い、風呂に浸かりながら
彼女の帰りに合わせて帰宅した分の生徒会の仕事をこなす。なるはずではなかった柄じゃない生徒会長も、やるからにはきちんとやらなければ気がすまない
浴室から出て、明日の朝食の下ごしらえを済ませ午前1時。
俺は漸く眠りにつける。
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