シンデレラは騙されない


綾さんはそう言って、私の手を取った。
私はちょっと胸の奥が苦しかったけれど、でも、綾さんの期待に応えたいと心から思った。

そして、綾さんは星矢君やご家族と一緒に、空港へ向かった。
きっと、星矢君のお母さまを恋しく思う気持ちがまた涙やため息となって溢れるはずだから、できるだけ星矢君の側にいてあげよう。
私に出来る事はそれくらいしかないから…

綾さんが帰国して一週間が過ぎた頃、会社から帰ってきた私に、星矢君が喜び勇んで抱きついてきた。

「麻里先生、あと、二回寝たら凛太朗が帰ってくるんだって!」

私の心臓は、星矢君とは違う意味で飛び跳ねる。
でも、冷静を装ってこう言った。

「星矢君、よかったね。
麻里先生も、嬉しい」

星矢君に連れられてリビングを覗くと、今日は珍しく会長も専務も二人とも揃っている。
私が二人に会釈をして部屋へ向かおうとした時、専務と会長が顔を見合せて私を呼び止めた。




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