シンデレラは騙されない


私は一つ一つ丁寧に答えた。
この斉木家の人々に悪い人はいない。
綾さんの穏やかな笑顔に私も癒されつつ、私は星矢君の家庭教師としての責務を果たすだけ。

「麻里さん、実はね…」

綾さんはそう言って、すぐに口を手で覆った。

「あ~、早く言いたくてたまらないけど、まだ時期じゃないみたい」

私が意味が分からなくてポカンとしていると、綾さんはごめんなさいねと謝った。
でも、その顔には幸せそうな笑みがこぼれている。

「突然、お願い事をするかもしれないけど、それは私の真心がこもってるという事を忘れないで。
あ、でも、強制じゃないからね」

私は本当に意味が分からない。
あまりに分からな過ぎて、綾さんの笑みに釣られて私も笑ってしまう。

「星矢がいつも麻里先生の話をしてくれるの。
麻里先生、大好きって」

私は嬉しくて顔を赤らめる。

「私も麻里さんの事大好きよ。
星矢の大切な時期に、こんな形で留守番にしてしまって…
でも、麻里先生のおかげで、私も救われてるの。

本当にありがとう」




< 142 / 290 >

この作品をシェア

pagetop