シンデレラは騙されない


「どう?」

屈託のない会長の笑顔に裏の思惑は何も感じられない。
私は尚更胸が苦しくて、ただその写真を見つめる事しかできなかった。

「別にすぐに結婚とかそういうのじゃなくていいって、綾からの言付けなの。
お友達からじゃないと何も始まらないものね」

「あ、はい…」

この状況で取り乱す事だけは避けたかった。
綾さんや会長が私を可愛がってくれている事は、普段の生活から感じ取れた。
だからこそ、私も星矢君の事を大切に真心を込めて接してきた。

頭の中に浮かんでくる凛様の笑顔を必死に追い払う。
そうじゃないと、容赦なく涙が溢れてくるから。

そして、会長は一枚の紙を私に渡した。
そこには、平塚悠馬さんという綾さんの大切な友人の経歴が記されている。

私が取り繕った笑顔で対応していると、星矢君が隣のテーブル椅子に乘ってきてその写真を覗きこむ。

「悠馬さんだ~
何で悠馬さんの写真がここにあるの?」

どうやら悠馬さんという人は、この家族にはお馴染みの人らしい。
そんな風にはしゃぐ星矢君を、専務が愛おしそうに抱きあげた。

「麻里先生と悠馬君が、お見合いをするかもしれないんだ」

「お見合いって?」

星矢君は下に下りたそうな顔をして専務にそう質問をした。




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