私は強くない
俺の腕の中で、慶都が穏やか顔で眠っていた。
そっと、顔にかかる髪の毛を耳にかけて、その顔を見つめた。

「慶都…」

今日も奥菜に屋上で、何か言われていたな。
慶都の行動が、おかしいと思って木村に様子を見ておいてほしいと頼んでおいてよかったと思った。
案の定、奥菜にやり直してほしいと言われていた。
あのまま、慶都が言い切らなかったら、俺が出て行くところだった。

どこまで行っても懲りない奴だ。

本当だったら、柏木部長の怒りを買って工場勤務の左遷になっていた所、営業としての力量を買われて、営業事務と言う事で降格になっただけでも、よしとしないといけないのに…。
何を考えているのか…

男として、最低だ。

もう我慢していられない。
俺だけの慶都であってほしい…

本当だったら、ちゃんとプロポーズしようと、いろいろと考えていたのに、あまりの独占欲の強さから、勢いで車の中でやってしまった。

「ごめんな、こんな俺で…」

顎に手をかけ、眠る慶都にキスをした。反動で慶都が、起きる気配を見せたが、また眠ったようだった。

俺の腕の中で、眠る慶都を見ていると、あんなに強い事を言えるようには見えなかった。 こんなに今でも倒れそうなのに…。

慶都…

自分がどれだけ辛い思してきたか、それなのに浮気相手の事まで、心配してあげるなんて、優しすぎだろ。
でも、そんな彼女だから俺は好きになったのかもしれない。

柏木部長は慶都を強い人だと、言っていた。
俺には、こんなにも弱い、守ってやらないと、って思っていたけれど、芯の強さにびっくりしたし、その強さが魅力なんだと気付かされた。

その彼女を大事にしたい。

「一緒にいような…」

腕の中で、眠る慶都の額にキスをした俺はまた目を閉じた。






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