私は強くない
名取は都築からの電話で、いつもの居酒屋で待ち合わせをしていた。

「あいつ、自分から誘っておきながら遅れてくるって、なんなんだよ」

『すまん、遅れるから先に飲んでてくれ』

と、都築からメールをもらっていた名取。1人飲んでいると、慌てて都築が店に入ってきた。

「悪い!遅れてすまん!」

「仕事だから、仕方ないけどな。お前から誘ったんだろ?」

まぁまぁ、と言いながら、都築も名取と同じくビールを注文した。

「…で、話って?」

「あぁ、今回の人事異動の件なんだがな」

「異動って、営業部樫原の後任の事か?」

「あぁ、そうだ。前に奥菜を考えてるって言ってたよな?」

「まぁ一応な、奥菜もしっかりやってきてるし、この機会にいいんじゃないかなと思ってるよ。なんかあったのか?」

「何もないんだけどな、俺の部下の倉橋はどうかなってな」

「な、なんだって?倉橋?」

「あぁ。本人から、異動願いがあったんだよ。今日」

名取は都築が何を言っているのか、分からなかった。
慶都が営業部から、人事部に異動した時、少なからず、名取の口添えもあったからだ。なぜ、また営業部に戻す必要が…。しかも、本人からの希望って…。

「都築、本当に、本人が営業部を希望したのか?」

「あぁ、本人からの希望だよ。元々希望でもあったから、もう一度頑張りたいってな。今回の後任の事、倉橋も会議に出てただろ?だから、彼女が自分から希望を出してきたんだ」

「俺達だけの意見が、通る訳もないんだけどな、名取だけでも希望してる人間がいるってことを理解してて欲しくてな」

真剣に話をする、都築の顔を見て本気なんだと理解した名取だった。

「分かったよ。倉橋に一回確認してみるよ」

「頼むよ。俺としては人事部にいて欲しいんどけどな」

「しっかりしてるからな、倉橋は」

2人で慶都が、どれだけ仕事が出来るかを話し込んだ。


数時間後、名取は、都築と別れて家路に着いていた。
都築から、慶都が営業部に戻りたいと打診があったと聞かされた名取は、このまま営業部に戻れるように、話を薦めていいのか、考えていた。
3年前にも、同じ事で悩んでいた事を思い出していた。

「さぁ、どうすればいいかな…」

眠れそうにないなと感じる名取だった。
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