私は強くない
「3年前か…」

名取は都築からの話を思い返してした。
倉橋からの異動願い。
どうして、今さら。
あの時だって、倉橋からは営業部にいさせて欲しい、人事部なんて納得がいかない!って中々納得してくれなかったな。
俺だって、あんな人事を納得した訳じゃなかった。
倉橋には、もっと営業部で俺の下で頑張って欲しかったのは事実。
しかし、男社会であるが故に、倉橋を辛い立場にいさせる訳にはいかなかった。

3年前。
今回と同じように、係長のポストが空くことになり、同じくして人事部にも係長の籍が空きが出た事で、人事をどうするかで、会社内で少し問題が起こった。
俺としては、入社以来、営業部で9年頑張ってきた倉橋を引き上げたかったが、その当時31歳だった倉橋の年齢を危惧する声が上がった。
結婚すれば、すぐに退職すると分かってる女性社員を役職に就ける意味がないと。
それを聞き、どこまで男社会なんだ、と俺は思ったが、あまり強く言うと、倉橋との仲を誤解されかねないと思い、それ以上の事は言えなかった。
営業部では、会社の顔としてやっていかなければいけない、だから結婚すれば、退職してしまうと分かってる女性社員に役職を就けるのはどうかと言う風潮があった。
実際、ここAGでは、女性社員がほぼ結婚退職している。倉橋の同期も残っていなかったのも事実。
そういった事実があるが故に、倉橋の係長への昇進が、あまりいい事ではないと俺にも分かっていた。
ただ、営業部だけの問題なら倉橋が、営業部に残って仕事を続ける事も出来たが、人事部に籍が空いてしまう事で、社内から人間を異動する事が決まっていた。
誰を?人事部に任していれば、ちゃんとした人選をするであろう、と思ていた。

だが、それは見事に裏切られた。

都築から、連絡があり人事の意向を聞かされた。

「なんだって?」

俺は耳を疑った。
都築も話をしながら、俺も不本意だと。

「悪い、これは内密だから、おおっぴらには出来ないんだ。まだ決定事項ではないから。しかし、お前の部下の事だから言っておくよ」

都築の話している事が、頭に入ってこない。
なんで、倉橋が降格なんだ?
は?

「今回の人事なんだが、樫原が係長ってのは、ほぼ決定だ。ただ人事部の方がな、まだこれと言って人選が出来ていない。俺としては、人事部から引っ張れる奴がいないんだよ、情けない話。他から引っ張ってくる事になりそうなんだがな、専務が縁故採用の話を持ってきたんだ」

「ち、ちょっと待ってくれ。都築、それと、倉橋の件がどう繋がるんだ?」

「あぁ、営業部に入れたいらしいんだ。そいつを」

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