私は強くない
会議の後、名取課長と話する事が出来た。
どうなるか分からないが、前に進むこと事が出来た事は確か。
なる様にしかならないと、自分に言い聞かせていた。


名取課長と話をした数日後、

「慶都!」

仕事が終わり帰ろうとする私を呼び止められた、拓真に。
無視。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

腕を掴まれた。

「何すんのよ!」

会社から離れている事もあって、以前と変わらないように、私の事を呼んだ拓真。

「もう、私には用がないでしょ?馴れ馴れしく呼ばないで」

「…会社じゃ、こんな話出来ないだろ。電話してもLINEしても出ないじゃないか」

何言ってるのこの人。
自分が何をしたか、分かって言ってるの?
私が悪いみたいな、言い方しか出来ないなんて。

「話って、何よ」

「これ」

そう言いながら、私の部屋の鍵を出してきた。

「俺が持ってる訳にいかないから、…で、俺のマンションの鍵返してほしいんだ」

「…っ」

言い返せず、鍵を受け取りながら、キーケースにつけていた拓真の鍵を突き返した。無神経に拓真は話を続けた。

「部屋にある荷物どうする?片付けるなら、荷物まとめて送るけど」

全部捨ててくれ、と言ってやりたかったけど、そうはいかないものも置いてあったのを思い出した。
本当だったら行きたくないけど、これが最後と思って、今から行って、自分で片付けたい、と言っていた。

「え、今から?今はちょっと…」

明らかに嫌がってる。
来てほしくないと、態度が言ってた。

「いつならいいの?早く片付けないと、困るのそっちじゃないの?私の荷物見られたら困るんじゃないの?」

「あ、いや、慶都の事は知ってるから、いいんだ。見せないようにはしてるけど、香里、あ、向こうも分かってるから…」

香里って言うんだ。
知ってる、って何を知ってるの。
二股で私が負けた事?自分が勝った事?

なんなの。
ここまで来て、この仕打ちって何?

「じ…じゃ、いつなら…いいの」

♪♪♪♪

拓真の携帯が鳴った。
ディスプレイを見た拓真が、一瞬戸惑った表情が見てとれた。
愛しの香里ちゃんからね。

「出なよ、彼女なんでしょ?」

「あ、うん。ごめん。もしもし?どうした?」

声が聞こえないように、後ろをむいて話をする拓真。

やっと切れた糸が、新しい糸と繋ぎ合おうとしていたのに、また音を立てて切れようとしていた。
新しい事を始めて、自分を奮い立たせようとしていたけど、限界だった。

もう、無理。

「もういい。荷物は全部処分して。いらない。必要ないから。あなたの荷物も処分しておくから、さようなら」

「ちょ、ちょっと待って、え、誰と?いや、あの……」

私の声が聞こえたのか、話を続ける拓真は慌てて、私に話をしようとしていた。
私は、そのまま、もと来た道を戻った。
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