私は強くない
名取課長の家に泊まった。


….で、泣いていいよ。と言われ張り詰めていた糸が切れてしまった。
ずっと我慢してきてたものが、出てしまった。
一緒に仕事している時から、名取課長は優しかった。
厳しい時もあったけど、ちゃんと分けて対応してくれてた。
だけど、昨日今日の優しさは、それ以上だった。


そして、キスしてしまった。

右手で唇に触れる。

「キスしちゃったんだ…」

拓真の事で傷ついてたはずなのに、あの時、キスされている時は名取課長の事しか考えられなかった。

「なんで?切り替えが早いの?私」

失恋して、弱ってるせいだと思いたかった。名取課長も私が失恋したのは、分かってるだろうから、優しさからで…。
答えが見つからなかった。


キスの後、一緒に買い物に行って、私が作ったお昼ご飯を食べて、今家に送ってもらった。

私が車を降りようとした時、名取課長が、

「い、行く…」

「え、あ、あの」

「今日の事、勢いでしたんじゃないからな?と、とりあえず、今日はゆっくり休め。分かったな」

「はい、ありがとうございました」

あれって、どう言う意味だったんだろう。
勢いじゃない?
慰めた?

もしかして、したかった?
まだ独身だし、長く彼女いないって言ってたし。

いやいや、ないない。慌てて首を振る。名取課長のイメージにないない。

分かんなくなってきた。
けど、名取課長の事が気になり始めていた。
いつからだろう?



ブーブー

携帯のバイブ音

そうだ、飲みに行った時にバイブにしたんだった。
拓真が、しつこく電話をかけてきてたから。

メール誰からだろう?

名取課長からだった。

『食事作ってくれて、ありがとう。美味しかったよ。また作ってくれたら、嬉しいかな(笑)よく寝ろよ』

名取課長。
なんか、嬉しい。
こんなに気持ちになれるのって、久しぶり?
メールを見ながら、笑っていた。

メールを閉じ、現実に戻された。

何これ。

不在着信10件

って、何。

しかもLINEのメッセージも。


拓真。

何の用事よ。
あ、荷物か。
そんな話昨日してたっけ。

荷物捨てられたら困るのか。

仕方なく、LINEに返信した。

『何か用?』

すぐさま電話が、かかってきた。

「どこにいるんだよ?昨日から連絡してたのに」

なんでえらそうなの?
強い口調で言われ、腹が立つ。

「どこにいようが、関係ないでしょ?なんの用事よ」

「…なんだよ。っ荷物、慶都いいのかよ、捨てて」

「昨日、話したでしょ?捨てて下さい。あなたのも捨てますので」

「ちょ、待ってくれよ。捨てられたら困る物があるんだ」

「どうしてよ」

「いるものがあるんだよ、だから取りに行きたいんだ。いいだろ?今、家だろ?行くから」

「え?待っ…もしもし?」

今からって、何よ。
自分の時は、嫌な顔したくせに。

どうしよう、今二人きりでこの部屋で会うなんて…。

慌てて、電話をかけていた。


お願い、出て。

「もしもし?……」



ピンポーン

うそ。

もう来た?

モニターを見ると、拓真だった。
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