私は強くない
「相手が、思い描いたプロポーズが出来たらいいけど、そんなに簡単な事じゃないだろ」

「そうだけど、希望とか聞いたりするじゃん」

美波は、彼氏からプロポーズされた時の事を言ってるようだった。
確か、普通にご飯食べに行った時に 言われたって、言ってたっけ。
特別な日にして欲しかったって。

そんなものなのかな、と私は話を聞いた時に思ったけど。

「彼氏にしてもらえなかったからって、俺らに矛先向けるなよ。名取課長だって困るだろ」

「俺は別にいいけどな、今はそんな相手もいないし。けど、お前はそうはいかないだろ、奥菜」

ドキッ

まさか、その話を名取課長が拓真に振るとは思ってもみなかった。
ここぞとばかりに、美波が話を続ける。

「そうよ奥菜、彼女いるって言ってたじゃない、プロポーズする気あるの」

……!

いきなり、確信。
2人から迫られた拓真が、なんと言うのか気になるけど、怖い気もする。
黙って話を聞いていたら、静かに拓真が口を開いた。

「しますよ。ちゃんと。けど、人にいう事でもないから…」

「そうだったな、プライベートな事だからな」

プライベートなら事と言って、名取課長が話を止めようとした時、続けて拓真が、

「結婚しようと思ってる人がいるから、また報告しますよ」

……!!!

真剣な顔を見た時、私は今朝からの妄想が、現実になるんだと確信した(勝手に)。

休憩が終わり、廊下を歩いていると、

「よかったですね、慶都さん」

「美波、今日は慌てたよ。けどありがとうね」

心が暖かくなる感じがして、午後からの仕事がいつもよりスムーズに進んだ。

「どうして?」

定時に、上がろうとする時に限って、どうしてこんな事になるんだろう。
午後からの会議が、課長が出先から帰ってきていないせいで、戻り次第になってしまい、何時に帰れるのか分からなくなってしまった。

定時には上がる、と拓真に朝言っていたので慌てて、LINEを立ち上げてメッセージを送った。

『ごめん。課長が戻ってきてからの会議になるんで、定時には上がれそうにないです。終わったら連絡入れるね』

送信して、すぐに返信があった。

『了解です、心配しなくていいよ、終わったら連絡して』

この時、私は今日プロポーズされるんだ、と幸せの絶頂にいた。
勘違いでもいい、プロポーズじゃなかったとしても、結婚に向かっての話を何かしてくれるのであろうと思っていたから。

いつもなら、面倒だと思う会議の準備も楽しくて仕方なかった。

そう、家に帰るまでは。
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