私は強くない
昼休み、朝の続きをしようと社の食堂で美波が突っ込んでくる。

「教えて下さいよ。あれでしょ?」

知ってか知らずか、あれ、と言って聞いてくる。

「何にも言ってないじゃない。また話するから」
「えぇ〜、またぁ?」
「大きな声で、そんな言い方しないの、若い子でもないんだから」

笑いながら、そんな話をしていると、食堂に拓真が入ってくるのが見えた。

「ほら、来たじゃないですか?」

私が気がついたのが分かったみたいで、美波がからかってくる。

「もう、声が大きいって。静かにしてって」

「だって…」

私が、拓真と付き合ってる事を社のみんなは知らないから、美波に黙ってと言っていると、私達に気がついた拓真がテーブルにやって来た。

「相変わらず、仲がいいですね。倉橋係長と木村」

「お疲れ様。今からお昼?」

「奥菜、聞いてくれる?あのね…」

「いいから、…」

慌てて話を止める。

拓真と美波は同期だから、仲がいいんだけど、私は会社じゃ上司になってしまうから、話し方にも気を使ってしまう。
そんなやり取りをしていたら、拓真とと同じ営業の名取課長から声がかかった。

「仲がいい同期がいるっては、いいな」

「そうですね…、けど、名取課長も同期の方いらっしゃるじゃないですか」

「いるけど、役職ついてる奴ばっかりだから、なかなかこんな風に他愛のい話なんか出来なくなったな」

そんな話をしながら、拓真と名取課長は同じテーブルで食事する事になった。
ここぞとばかりに、美波が拓真に突っ込もうとしているのが、ありありだった。

「…なんですよ、どう思います?名取課長」

やば、話聞いてなかった。
なんの話をしてたんだろう?
拓真を前にして、また勝手妄想が始まっていた私。

「木村は、それでよかったんだろう?」

「そうなんですけど、雰囲気って必要じゃないですか?」

「木村、それはお前のワガママだろ」

拓真も美波から話を振られたようで、少しイライラしているのが分かった。話が見えず、黙って話を聞いていたら、いきなり私も話を振られた。

「慶都さんだって、そう思いますよね?プロポーズされる時って、場所とかいろいろ夢がありますよね?」

「え?プロポーズって…、あっ」

慌てて、持っていたお箸を落としてしまった。

「何やってんだ、倉橋、いつも冷静なのに」

そう言いながら、名取課長がお箸を拾ってくれ、新しいのを渡してくれる。

「いきなりだったんで、…びっくりしてしまって…」

慌てる私を見ながら続ける美波

「慶都さんだって、絶対夢ありますって!」

なんで言い切るかな。
確かに夢がない訳じゃないけど、拓真の前で言わなくても。
黙って、話をきいている拓真だったけど、私の顔は見ようとはしなかった。
恥ずかしいのか、何か考えてる事があるのか。

「じゃ、名取課長と奥菜はプロポーズは、どんな風にしよう!とか考えてます?」

「……!」

また飲んでいた水を吹き出しそうになった。
美波が言ったその言葉に、最初に反応したのは拓真だった。
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