私は強くない
2人で朝食を摂っていると、名取課長の携帯が鳴った。

「あ、悪い」

そう言いながら、電話に出た名取課長、

「…名取です。はい、おはようございます…」

会社からかな、あの感じじゃ。
そう思いながら、テーブルの上を片付けていた。

「え?あ、はい。今度の人事ですか?……」

人事と聞いて、ドキッとした。
私が都築課長にお願いした事を思い出した。
名取課長にかかってくるって事は、誰だろう?
柏木部長?常務?
聞き耳を立ててはいけないと、思っても電話が気になって仕方なかった。

「はい、え、はい。私としては、奥菜を後任に、と思ってましたよ。営業部から選任するって言ってましたよね?違うんですか?あ、はい…えぇ?そうなんですか?だったら、私としての意見としたら、倉橋は適任だと思いますよ。はい。常務も前回の人事の件ご存知でしょう?私としては、倉橋を人事部にやる事は反対だった。えぇ、そうです……」

え?前回の人事って、私が人事部に異動した時の?
名取課長が推したって、聞いていたのに、どうして?

「えぇ、本人も望んでるのであれば、私は倉橋を推しますよ。今回は中からの選任と聞いていたんで、奥菜の名前を出しただけです。はい。え?はい。それは大丈夫でしょう。倉橋はやりますよ。3年離れていても、奥菜以上の力は持っています。えぇ、元直属の上司の私が言うんですから。そこは信用して下さい。はい、はい、分かりました。お力添え、ありがとうござます。はい、失礼します」

電話を切った後、ふーっと大きなため息を吐いた名取課長。

「大丈夫ですか?常務から、ですか?」

「あ、あぁ」

「あの、聞こえちゃったんですけど、人事の事ですか?」

「常務から、今度の人事に関して意向はあるかと聞かれたんだ。都築から聞いてる事は内緒だからな、知らない振りして、倉橋を推しておいた」

「ありがとうございます!」

頭を下げた。
3年前のこと、聞きたかったけど、聞けるような雰囲気じゃないし、それよりも営業部に推薦してもらえることの方が大事だった。

「常務がな、倉橋の意向は聞くって、だがな、営業部からの選任は頭にあるから、選考で決めるって」

「選考?」

「あぁ。倉橋と奥菜、それと佐野でプレゼンしてくれと」

拓真と…ん、え?

「え?佐野って佐野主任ですか?」

頭を抱える名取課長。

「そうなんだ、佐野は専務の娘婿なんだがな、また割り込んできたらしい。常務が止めようがないから、プレゼンで決めましょう!って言ったらしいんだ」

「相手の会社はどこですか?」

「東和堂だ、出来るか?倉橋は大丈夫だと思ってるが、3年営業から離れてるだろ、俺も手伝ってやりたいが、それもな…」

「大丈夫です。私、誰に鍛えられたんだと思ってるんですか?名取課長ですよ。完璧にやってみせますよ」

私のプライドをかけて拓真と戦うわ。
< 42 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop