私は強くない
「何、言ってるの?私達は終わったのよ?別れてるの!」

大きな声を出して叫んでいた。
拓真は、私がそんな事を言っても動じなかった。

「離れてみて、よく分かったんだ。香里に騙されてたんだよ」

ダメだ。
この人は、私が好きだった拓真じゃなくなってる。こんな人じゃなかった。
ううん、私が見れてなかっただけなのかもしれない。
ダメ。
この人と話なんて、出来ない。

拓真は、ドアを開けて私がいるデスクまで近づいてきていた。

「なぁ、慶都。もう一度俺を信じてくれ。結婚しよう」

もうダメ。
これ以上、聞けない。
私は、書類を片付けてその場から逃げるように、会社を後にした。


プレゼンに向けて会社で残業したその日、拓真から「やり直さないか」と
言われた。
結婚はやめる、妊娠していなかった。だから、やり直そう、と。

今さら、私の中に拓真への気持ちがあるのかと聞かれたら、はっきりと「ない」と、言える。
だけど、さっきの拓真の発言で私の心は乱された。

いつまでも、待ってると思われてる事に、バカにされてる事に。

拓真から、何回も電話がかかってきていたけど、出る気もないし、かけ直す気もない。あんなに身勝手だと思わなかった。
私が動揺したのを見て、まだ大丈夫だと思ったのか、追い打ちをかけようとしているの?

それとも、今度のプレゼンで失敗するように、動揺させてるのか、頭の中でいろんな事がグルグルと回っていた。
私はどうしたらいいんだろう。
誰か、教えて。



そのまま家に戻った私は、何も手につかず、鳴り止まない携帯を見つめていた。


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