私は強くない
決別
うっすらと、記憶が遠のきそうになった時、名取課長の声が聞こえてきた。

「好きだ」

…、名取課長、私もです。
そう言えたら、どんなにいい事だろう。


夢ね。

これは夢よ。
現実な訳がない。
名取課長は、心配してくれてるだけ、優しくしてくれるのは。

夢ならこのまま、覚めないで…。

どうして、私はこんなに男運がないんだろう。
拓真に振り回されてる。
別れる時、別れてから。
何回泣けば、いいの?

これが夢なら、ずっと見ていたい。

名取課長に抱かれたまま、私は朝まで眠っていた。

「…う、うん…」

「起きたか?」

誰?

「ん?」

「よく寝てたな。大丈夫か?」

「あ、あ、名取課長!」

「何びっくりしてるんだ?今さらだろ?」

まさかの名取課長の、顔間近にあった。少し動くだけでキスが出来る程に。
恥ずかしくて、固まってしまった私。

名取課長は、笑いながら

「昨日の事、覚えてないのか?俺がここにいる事とか?」

「…そうでした、すみません…」

「謝らなくてもいいんだがな。大丈夫か?」

「はい。ぐっすり眠れました。」

「そうか。それならよかったよ。安心した。倉橋、前にも話したよな?お前から頼られる事は、いいんだ、って。倉橋だからいいんだ、って」

「…はい、そうでした。でも、私まだ…」

少しの間が空いて、

「倉橋、来週の東和堂のプレゼンが終わったら、言いたい事がある。それまで待っててくれ。いいか?」

「…は、はい。わたしも伝えたい事があるんです」

「わかった。じゃ、その時な」

思っている事を口にしようとした、その時、名取課長からプレゼンの後話があると言われた。

私も来週、ちゃんと答えを出そう。

この気持ちを大事にしたい。


♪♪♪♪

「倉橋の携帯だろ?」

「あ、ほんとだ。すみません。…もしも…」

「慶都さん!どういう事ですか!!!」

電話口から、美波の叫び声が聞こえる。
な、なに…

固まっていると、美波の声が聞こえたのか、名取課長が、あぁとボソッとつぶやいた。

「昨日、金谷に言ったんだ。だから木村も奥菜の事、聞いたんだろ」

「許せない!!」

携帯を耳につけなくても、その声は聞こえてきた。

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