私は強くない
「…慶都さん!聞いてます?」

え?

「あ、ごめん、なんだっけ?」

「だから、奥菜の…」

私は、会社の食堂で美波と昼食を取っていた。
美波は、拓真の事を話してくれていた。ただ、美波から聞かされる話は、一体誰の話をしているのか、分からないぐらいものだった。

「奥菜、もう終わってますね」

「私、拓真の何を見てたんだろうね」

「慶都さんのせいじゃないですよ」

「ん、だけどね。あんな風にさせてしまったのは、私なのかなって思うよ」

「悩まないで下さいよ」

会社の食堂っていう事もあり、私達は端っこのテーブルに座って話をしていた。
美波が聞いてきた話では、拓真は合コンで知り合った女の子(香里だっけ、確か)から、グイグイ来られてたらしい。最初は、若いし可愛いから、とちょっとした浮気心で、手を出したらしい。その手を出した時点で、終わってるんだけど。
拓真の中では、一回だけのつもりで手を出したらしいけど、相手が負けなかったらしい。若いっていいよね。
35になった私は、そんな風に強く出れない。
…で、私にない強引だけど可愛い、甘えてくれる若い彼女と、ズルズルと会ってたらしい。しかも、その彼女には付き合っている人がいる、と言ったらしく、その子が2番目でもいいって、OKしたらしい。完全二股前提で話をする拓真も大概よね。それに、受ける方もどうかなと思う。

そこから、彼女からの攻撃が始まったらしい。最初から2番目になるつもりなんて、なかったんだよね、きっと。
その強引さも、拓真にとって新鮮だったらしく、のめり込んでいった、と。
バカじゃない?それが第一感想。
ほんと、バカ。
救いようのない、バカ。


「…あ、もうこんな時間。今日は付き合ってもらいますよ」

慌てて、時計を見て話す美波に、

「分かってるわよ、私も続き聞きたいしね」


約束をしていた。
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