私は強くない
不幸体質
どうして私はここにいるんだろう。

この浜口香里と名乗った女と、カフェに来てるんだろう。

そう、拓真と決着をつける為に、会社で会う約束をして、早めに会社を出た私は、この浜口香里に呼び止められた。
「奥菜拓真さんとお付き合いさてもらってます」

か。
自分で勝ち取ったくせに、何を言ってるんだか。

私の前で、ロイヤルミルクティーを『熱っ』と言いながら飲んでる女を見ながら思う。
確か、私よりひと回り下なはず。
肌を見ても、綺麗よね。
ピチピチしてる。こんな事を言ってる時点でオバさんだけど。
そりゃ、勝てないわ。こんなのが全力で来たら。
うん。無理。


しかも、この浜口香里は私に話があると言ったくせに、何も喋らない。
ずっと、下を向いている。
いい加減、イラっとしてきた。

「あの、話があると言ったのは、あなたですよね?何か言ったらどう?」

「あ、あ、あの!私から盗らないでいただけますか!拓真さんを」

言うタイミングを図ってたのか、仕事終わりで、ごった返す店内に響くような声で、盗らないで、と。

おいおい、周りがみんな見てるじゃない。
絶対、私が年上なのは明らかだし、すんごい嫌な女に見られてるはず。
周りの視線が痛いよ。

「…あのね、もう少し冷静に話出来ない?」

精一杯の強がり、年上の威厳を見せる。

「冷静って!……うっうっ…」

「え、え?ちょっと、なんで泣くのよ!」

いきなり泣き出した。
こっちが泣きたいのに、なんなの。この女。

さっきよりも、視線が痛い。

泣けば許されると思ってるのから泣いた方が勝ちだと思ってるのか。
誰もが、女の涙に弱いと思ってるのだとしたら、大きな間違いよ。


「あのね、私が何かした?」

「してるじゃないですか!」

なんなの、この強さ。
話にならない。

どこまで行っても平行線だわ。
もうすぐ約束の時間だし、出よう。

「悪いけど、あなたに指図される覚えはないから。自分で拓真を引き止めなさい。あなたとこれ以上話する事はないから」

「逃げるんですか!」

泣いてた思ったけど、そうじゃないみたいね。涙なんで出てやしない。
やっぱら腹黒だわ、この女。

「私から奪ったんだから、出来るでしょ?それに、逃げも隠れもしないわよ」

それだけ言って、店を出た。
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