私は強くない
Marry me
「…都、慶都!」

屋上から、慌てて降りてきた私の腕を誰かが掴んだ。

「え?あ、圭輔さん」

「大丈夫か?何度も名前呼んだんだぞ?何があった?」

屋上に通じる階段の前で、圭輔さんに腕を掴まれていた。
まだ会社の中なのに、私は圭輔さんに抱きついて泣いてしまった。

「お、おい、どうした?」

ここじゃ、人が来るからと近くの会議室に入った。

泣き止まない私を、黙ったまま抱きしめてくれていた。

少しして、落ち着いた私は圭輔さんに、屋上での話をした。

「まだそんな事になってたのか!やっぱり慶都の側には置いておけないな」

「ごめんなさい。大丈夫、割り切ってるから大丈夫なの、圭輔さんもいるから。ただ、こんな人の事好きだったなんて思ったら、もう…」

「いいのか?」

黙って頷いた。

どれくらいの時間が経ったのか、泣き止んだ私の頬を指で拭った圭輔さんは、帰るぞと私の手を握って駐車場に向かった。

「慶都…」

「はい?」

「帰ってからでもいいかなって思ったけど、我慢出来そうにないよ。これ」

そう言って、圭輔さんは運転しながら、左手出来ポケットから小さな箱を取り出した。
これ、と言いながら私の掌に乗せてくれた。

「これ…」

「開けて」

「いいんですか?」

「うん。開けて」

掌に乗るその箱を私は開けた。
その中には、ピンクの小さなジュエリーケースが入っていた。
横目出来私を見ながら、圭輔さんが続けた。

「開けて」

ケースを開けると、そこには可愛いらしいデザインの指輪が入っていた。
持つ手が震える。

「こ、これ…」

「こんな車の中、しかも運転中で悪い。でも、もう待ってられない。慶都、俺と結婚してくれないか?」

結婚…

乾いたはずの私の頬に、また涙が伝っていた。
< 99 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop