家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

再び、ひとりと一匹の散歩時間になる。

『……オードリーがそういうんじゃ仕方ないか。うん』

レイモンドのひとりごとに耳を揺らして、リルは歩く。
黄昏の街はどこか温かかった。



それから数日後、リルは泣きながらやって来たレイモンドに驚く。

『どうしよう、リル。落としちゃった。母さんの大事な指輪。母さんが忘れていったから、俺、届けてあげようと思っただけだったのに』

レイモンドはひどい転び方をしたのか、膝から血を出し、手のひらをすりむいていた。

『ワン!ワン!ワン!』

いつも元気なレイモンドが泣いていることに驚いて、リルはとにかく指輪を探そうと思った。
レイモンドの匂いをたどればいい。通りのどこかで転んだんだろう。

普段、無駄吠えすることのないリルの鳴き声を気にした従業員のひとりが、外に出てきた。

『どうした、レイモンド』

『あ、オリバーさん。実は……』

レイモンドの話を聞いたその男は、『リルに探させればいい』とリルの綱を解いた。

すぐにリルは駆け出した。レイモンドは追おうとしたが、足の怪我を見たオリバーが止めたのかついては来なかった。
膝から出た血の匂いが強く残っていたため、リルは直ぐにレイモンドが転んだであろう場所をすぐに見つけることができた。
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