家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「なるほどね。恐ろしいほど計画性はないし、不思議ではあるけれど、実際ここにたどり着いたんだから、嘘やまやかしではないことはわかる。この場所に固執する気持ちもわからないでもない。……だからここで雇って欲しいってことなんだな?」

「はい……でも」

ロザリーはちらりとレイモンドを見つめる。
先ほどお願いしたときは、とても迷惑そうな顔をしていた。
ランディもチェルシーも動きに無駄のない慣れた従業員だ。自分に同じような働きができるか、ロザリーには自信がない。

「この宿は人手不足だ。だが、役に立たない従業員は必要ない。ここで雇ってほしいなら君にしかない特技が必要だ、わかるかい?」

「特技ですか?」

「そう。役にたたなければいる意味がない。仕事なんだから。君は君の能力でこの宿屋を盛り立てれる?」

「私にできること……。どうしよう」

ロザリーは自分の手をじっと見つめる。ザックに最初に指摘された通り、ロザリーの手は何の労働も覚えていない。もちろん、今から覚える気はあるが、チェルシーのような無駄のない動きができるようになるまでには、尋常じゃない時間が必要だろう。それ以外で、なにかあるとすれば……。

「鼻くらいしかないです。匂いを嗅ぎ分けるくらい? でもそれで何ができるでしょう」

「それだよ。君は失せもの探しができる。それを売りに、人を呼ぶことが可能だ。おーい、レイモンド」
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